適応障害とうつ病の違い(当方解釈)
2021/8/4
当方なりの鑑別
精神病理とハイデルベルク学派をこよなく愛している当方は、一般的な解釈とは、少し違った角度を踏まえて、適応障害とうつ病の鑑別を行います。
では、その違った角度とは、何かと言えば、「症状の可逆性」です。
例えば、仕事のストレスで、うつ症状を呈したとしましょう。
そのうつ症状が、仮にうつ病の診断基準を満たさないものであったとすれば、適応障害に伴ううつ状態と診断します。
ここまでは、通常の解釈と同じです。
次に、ではこの患者さんをそのストレス因から退却してもらいます。つまり、休職していただきます。適応障害はストレス反応です。「反応」なのです。
反応であれば、当然、そのストレッサーの暴露から退却出来て、家族や知人に癒され、時間が経過すれば当然、症状は改善していきます。
しかし、休職して、癒され、時間が経過したにも関わらず、症状が思うように改善しないケースもあります。当方は、この時点で、適応障害からうつ病に診断を切り替えます。
この考えは、ハイデルベルク学派のクルト・シュナイダーの考えに基づいています。
シュナイダーは、「意味連続性の断裂」という概念を提唱しました。これは、もともと統合失調症に使われることが多いのですが、「心のレベル」と「脳レベル」の境を判断する事に非常に役立ちます。
少し難しい話になってきましたね(涙)
意味連続性の断裂
この「意味連続性の断裂」とはどのような事でしょうか。
ストレスで心を病み、うつ状態となった人が、そのストレッサーから解放されれば、時間経過とともに、うつ状態は改善するという流れが通常の意味連続性です。つまり、生物学的に一般的な流れです。
しかし、そのストレッサーから解放されたにも関わらず、なぜか思うように症状が改善しなかったり、悪化してしまう。そうなると、意味連続性が断裂していると考えます。つまり、生物学的に一般の流れから逸脱していることになります。
つまり、「あれ、おかしいなぁ」、「こんなはずじゃなかったなぁ」という感覚です。
では、この意味連続性の断裂が何を意味しているかですが、それは、「可逆性の損失」、つまり、「脳レベルの障害の有無」です。
人がストレスで心を病むときは、「心のレベル」から始まり、「自律神経レベル(過覚醒)」となり、さらに悪化すると「脳レベル」となります。
心のレベル
↓
自律神経レベル(過覚醒)
↓
脳レベル
まず、ストレスに暴露されると、
「心のレベル」で、「あ~、やだなあ」、「辛いなぁ」、「逃げたいなぁ」、「落ち込むなぁ」と反応します。皆さんも心当たりがありますよね。
そして、次第に「眠れないなぁ」、「不安でドキドキするなぁ」、「肩こりが激しくなったなぁ」、「最近頭痛がとれないなぁ」、「胃もたれがして食欲がないなぁ」など「自律神経のレベル(過覚醒)」となります(過覚醒の詳細な「過覚醒のコラム」参照)
さらに病が進行すると、「仕事を休んでも全く気が晴れない」、「頭が全く働かない」、「新しいことが覚えられない」と悪化し、「脳レベル」の障害となります。
脳レベルの障害とは、脳内のセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなど神経伝達物質の失調をきたしている状態です。
この脳レベルまで進行すると、症状の可逆性が無くなってきます(不可逆性)。
この不可逆性は、治療後にわかる場合もあれば、治療前にわかる場合もあります。
診断の際に尋ねること
当方が診断の際に、よく以下の事を尋ねます。
「仕事がある日は、落ち込んだり、気持ちが鬱々とする事があると思いますが、週末や連休でご家族と一緒にいるときは、症状が緩和しますか?」
「週末の趣味の時間は、今まで通り楽しめますか?」
「プライベートや仕事で嬉しいことがあると、気持ちが改善しますか?」
この質問に対して、「Yes」であれば可逆性があるため、「心のレベル」、「自律神経レベル」と判断し、「No」であれば不可逆性があるため、「脳レベル」と判断します。
(もちろん、この質問以外に、表情の硬さ、日内変動(午前午後の症状の違い)、声のトーン、かもし出すオーラ・雰囲気などトータルで判断しますが)
つまり、
「心のレベル」、「自律神経レベル」→可逆性あり→適応障害
「脳レベル」→不可逆性あり→うつ病
という流れで診断します。
ちょっと難しくなっちゃいましたね。ホントすみません。
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